企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略をするうえで、新たに重要性が出てきた「リスキリング」についてご存じでしょうか。リスキリングには、時代の流れとともに変化する働き方において、新たに必要な知識やスキルを習得する目的があります。
リソース不足であるDX人材の採用が難しい時代に、すでに内部にいる人材に必要なスキルを習得してもらうリスキリングは、企業にとって合理的な選択といえるでしょう。この記事では、リスキリングの導入を検討している企業に向けて、実施するための6つの方法と注意点を解説します。
リスキリングを進める6つの方法
経済産業省が取りまとめた「人材版伊藤レポート(2020年9月公表)」のデータによると、「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素」の1つとしてリスキリングが挙げられています。持続的な企業価値の向上に、リスキリングが不可欠なのがわかります。
しかし、リスキリングの必要性は把握しているものの、どのように実践したらいいのかわからない方も多いのではないでしょうか。ここからは、リスキリングを進める6つの方法について解説します。
- リスキリングの必要性を共有する
- 必要な人材を明確にする
- リスキリングに取り組める環境づくりを行う
- 学習プログラムを作成する
- 実践の機会を準備する
- 効果測定を行う
引用:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート|令和2年9月 経済産業省
①リスキリングの必要性を共有する
リスキリングを導入し、プログラムを進めるのは企業です。しかし、リスキリングを進めるうえで社員の理解を得るのは必要です。
社員が新しい知識やスキルを習得する必要性を理解していなければ、リスキリングを実施してもモチベーションの維持は期待できません。教育の途中で離脱してしまう可能性も考えられます。
「なぜリスキリングの必要があるのか」「どのようなメリットがあるのか」など、経営陣から社員に伝え共有する必要があります。
②必要な人材を明確にする
リスキリングを進めるうえで「対象とするのはどのような人材か」「リスキリングによってどのようなスキルを獲得してもらいたいか」を決定します。
将来的に自社に必要な人材やスキルを洗い出し、リスキリングの対象となる人材を明確にしましょう。そのためには、経営戦略に連動した人材戦略を固めておく必要があります。
対象者を設定するときは、立候補制にするなど社員の自発的な行動を尊重し、立候補者のキャリアプランに沿うように実施することが大切です。
③リスキリングに取り組める環境づくりを行う
リスキリングは、研修を実施しただけでは効果が期待できません。リスキリングは継続して行うことが大切です。継続してリスキリングに取り組める環境を整備しなければ、社員の不満につながる可能性があります。
状況によって、外部講師による企業研修やe-ラーニングなどのアウトソーシングの活用も検討するといいでしょう。
また、企業研修の受講完了証の発行や資格取得、新たに習得した知識・スキルを用いて成果を出した場合に、インセンティブ制度を導入したり、同じ学習仲間同士でコミュニケーションを取るようにしたりするなど、社員のモチベーションアップにつながる仕組みを取り入れる方法も検討しましょう。
④学習プログラムを作成する
リスキリングの学習方法としては、eラーニングや社内研修、社会人大学やオンライン講座、書籍を使った独学などが挙げられます。どういった順序でどのように学習を進めていくかを検討して学習プログラムを作成する必要があります。
また、学習基盤を社内で開発している企業もあります。しかし、リスキリング用の学習基盤を社内で開発するのは、時間と費用の負担が大きく非効率的といえるでしょう。開発コストを軽減するためには、社外の教育コンサルティングサービスの利用やLMS(学習管理システム)を活用するなど、コストを軽減しながら効果的な学習基盤を利用する方法もあります。
⑤実践の機会を準備する
学習するだけではなく、身に付けた知識の活用とスキルの実践が大切です。しかし、習得した知識やスキルを活かす業務が社内にない場合も考えられます。
実践できる環境がない場合は、これから進めていく予定の事業でトライアル実践するのがいいでしょう。また、異動、社内インターン、特命プロジェクトへ参加などで実践する方法も考えられます。
実践の機会を設けたあと、実践した内容に対して適切にフィードバックすると、社員の意欲向上にもつながります。社員がスキルを磨き続けたくなる仕組みを作らなければ継続は難しいでしょう。
⑥効果測定を行う
リスキリングは、新たな技術やスキルを身に付けて業務に取り入れ、効率化を図る目的があります。学習して得た知識やスキルを実践した結果、仕事として通用するレベルのスキルが身に付けられているのかどうかの効果測定が重要です。
たとえば、既存の業務に掛かる時間を事前に図っておき、リスキリングを行った後に、どの程度業務が効率化したかを図る。Excelの関数を用いた資料作成の研修を実施した後に、実際の社内資料を改善し、その後の業務がどのように改善・効率化したかを測定するなど、効果測定の基準を決めて実施すると良いでしょう。
効果を測定したうえで、社員一人ひとりにどの程度スキルが身に付いているか分析し、学習プログラムの内容を定期的に見直します。
効果的なリスキリングの方法
業務時間中に研修などで学習したものの、リスキリングの効果がみられないケースがあります。リスキリングで習得した知識やスキルを活かして業務課題を解決したり、新しい仕事の取り組みを考えたりするなど、明確なモチベーションを持たないままリスキリングや社内研修を実施しても効果は期待できません。
「実践的なスキルを習得できなかった」という結果にならないように、リスキリングを効果的に進める必要があります。ここからは、効果的なリスキリング導入方法について解説します。
社員の保有スキルを把握する
リスキリングを効果的に行うためには、社員の保有スキルや学習の進捗状況などを把握すると良いでしょう。学習データをシステム上で一元管理し可視化すれば、教育スケジュールの管理もしやすくなります。
たとえば、「イータイピングや寿司打などを用いて、タイピング速度を計測して記録する。」「資料作成やデモ商談(ロールプレイング)などのテーマで社員に同一の課題を出し、所要時間と成果物に対して評価を行う。」「商品やサービスの理解を深めるため、社内テストを作成して採点する」などの方法があります。
社員一人ひとりの状況を見ながら、それぞれのレベルに沿った学習プログラムの実施や、ゴールの設定がリスキリングの効果向上につながります。
必要なスキルを選択する
リスキリングで学ぶスキルは、プログラミングなどのITスキル、英語、マーケティング、コミュニケーション、データ分析など多岐に渡ります。習得するスキルの内容はさまざまであり、企業によって何が必要かは異なります。
「どのようなスキルを社員に習得してもらう必要があるか」を考え、戦略を立てながら必要なスキルを選択しましょう。
eラーニングの導入
知識やスキルの習得方法の1つとして、eラーニングの導入が効果的です。インターネット環境と、パソコンやスマートフォンがあればどこでも学習が可能です。eラーニングの導入は「オンライン学習ができる」「自分のペースで学習ができる」といったメリットがあります。
人とペースを合わせるのが苦手な方や、研修のように決まった時間に業務を中断するのが困難な方にとっては、eラーニングでの学習が適切かもしれません。またリスキリングを管理する担当者の業務負担を低減できるメリットもあります。
自社で研修を実施する
eラーニングに加え、自社での社内研修も行いましょう。社員のレベルに沿ったオリジナルの教材でリスキリングを実施すると、実践的なスキルの獲得が実現できます。研修を実施するには外部講師を見つける方法もあります。教育研修や採用支援などを行っているサービス会社に依頼すれば、研修を通して人材不足の問題を解決へ導けるでしょう。
リスキリングを進める注意点
企業にとって社員の成長を促すリスキリングは、これからの時代に重要な施策であり、リスキリングに関する社内体制の整備は必須です。スムーズに学習できる仕組みの構築が重要なポイントになるでしょう。また、効果的にリスキリングを進めるには、いくつかの注意すべき点があります。ここでは、リスキリングを実施するうえでの注意点をお伝えします。
社内体制を整える
リスキニングは、知識やスキルの向上のために実施が必要なものの、マイナスなイメージを持ち抵抗感を持つ社員もいるかもしれません。特に中高年層のリスキリングに対する意識が低いのも課題の1つとして挙げられます。
しかし、日本企業の社員は8割が40代以上といわれています。企業は若年層だけではなく、中高年層のリスキリング強化を図る必要があるでしょう。全社員に向けたリスキリングの説明会を実施するなど、導入前にリスキリングに対して社員が積極的に取り組める環境づくりは重要です。
社員のモチベーションが下がらずに学習に取り組めるようにするためには、企業側の伴走が重要です。
最適なリスキリングを選択する
評判が高い学習コンテンツを導入したとしても、自社のリスキリングを実施する目的とコンテンツの内容が一致してなければ効果はありません。人材育成の課題は、企業によって異なります。リスキリングを実施するうえで「最適なものは何か」を把握してからのコンテンツの選択が必要でしょう。
社員の意欲向上を図る
リスキリングは、基本的に業務時間内に実施します。もともとの業務時間中に研修などの時間を入れていくため、研修時間が原因で残業などが発生してしまうと業務の効率を下げてしまう原因になりかねません。
リスキリングを実施した後にすぐ効果測定を行うのではなく、猶予期間として実践の場を設け、社員自ら業務効率化を行える環境を整えることで、社員の意欲向上を図るようにしましょう。
特に、IT系の難易度が高いスキルのリスキリングを実施する場合は、社員のモチベーションをいかに維持するかがポイントです。実際に新しいツールを導入するなど、実践の場を設けてスキルが身に付いているのを実感させるなど、社員の意欲向上につながる工夫が必要です。
リスキリングの実践方法
昨今のデジタル技術の発展によって、DX推進における新しい知識やスキルは全ての業種で求められるものです。そのためには、リスキリングを実践できる機会を設けなければなりません。ここからは具体的なリスキリングの実践方法について解説します。
人材育成コンサルタントへ委任する
リスキリングを導入する際、選択肢の1つとして人材育成を専門としたサービスの利用があります。リスキリングを実践するための最初の一歩としては、人財育成コンサルタントへ委任するのもいいでしょう。
なぜなら、経験豊富なコンサルタントに依頼すれば効率的にリスキリングが進められるからです。初期投資として専門家に委任する方法も選択肢の1つとして挙げられます。
DX推進企業へ出向する
社内でリスキリングを実践する以外にも、DX推進企業へ出向する方法があります。社員はDX化が進んでいる現場を体験できるため、即戦力となるスキルを身に付けられるでしょう。また、リスキリングが成功している企業へ出向し実践の方法を学べば、自社での失敗リスクを軽減できます。
中小企業におけるリスキリングの方法
中小企業がリスキリングを実施するには、さまざまな制約があります。たとえば、予算やリソース不足、専門家の不在などが挙げられます。大企業に比べると実施しづらい環境かもしれません。しかし、以下のような方法でリスキリングの実施は可能です。
法人向けの動画型リスキリング講座を受講する
オンラインでも受講が可能な法人向けのリスキリング講座があります。時間や場所を問わずに期間中であれば受講者の都合のいいタイミングで効果的に学習できます。短い動画時間で学習できるコンテンツもあり、業務でまとまった時間が取れない場合も学習しやすいでしょう。空いた時間に各自で学習を進めたり、時間を決めて対象者全員で受講したりする方法もあります。
法人向けの集合型リスキリング研修を受講する
オンライン・対面でも受講可能な集合型の法人向けのリスキリング研修もあります。リアルタイムに研修講師が指導するため、研修中に不明点があると、すぐに質疑応答ができるといったメリットがあります。個人で進めるリスキリングよりも効果が期待できるかもしれません。
リスキリング資格取得
さまざまな資格のなかから自分のキャリアアップに沿った資格を取得する方法もあります。数ある資格のなかでも、語学、プログラミング、マーケティング、法律などが人気です。空いた時間に学習し資格を取得すれば、即戦力として新たな業務に就ける可能性もあります。
まとめ
この記事では、リスキリングに対する具体的な実施方法や注意点を解説しました。リスキリングは、業務において新たな知識やスキルが必要になったときに備えて勉強する取り組みを指します。ビジネスシーンにおいて不可欠と考えられるリスキリングは、自社の将来性や経営戦略にあった実施方法で検討し実践していかなければなりません。
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