『社会保険の随時改定』とは、昇格等で被保険者に毎月固定で支払う報酬額に大きな変動があった際に社会保険料の見直しを行い、標準報酬月額を変更する手続きのことです。
今回は、随時改定の条件や月額変更届の作成方法について解説します。
以下にダウンロード資料とチェックリストもあるので、併せて確認しましょう。
ダウンロードできる資料はこちら
- 被保険者報酬月額変更届(Excel)
- 被保険者報酬月額変更届(PDF)
- 月額変更届チェックリスト(PDF)
随時改定について
社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)は、報酬に応じて区分された標準報酬月額にそれぞれの保険料率を乗じて算出します。
従業員の報酬は昇降給や雇用契約の変更等により変動するため、毎年7月1日から7月10日に全ての被保険者を対象とした標準報酬月額の見直しを行います。これを『社会保険の定時決定』といいます。
しかし、定時決定だけでは、年度の途中に報酬の大きな変動があった場合に変動後の本来区分されるべき標準報酬月額での計算が出来なくなり、報酬額に合った社会保険料を算出することが難しくなります。
適切に社会保険料を算出するために、年度の途中に報酬等の大きな変動があった場合は標準報酬月額の見直し・改定を行います。これが『随時改定』です。
随時改定の手続きを行うと、報酬の変動があった月から起算して4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用されます。
変動月=報酬の変動があった月の給与の支給月 例)月末締め翌月25日払いの会社/4月に昇給:変動月=5月 |
随時改定に含めるもの、含まれないもの
随時改定の対象となる報酬は、労働者が労働の対価として受け取る金額(物)のみです。
対象となる報酬と、対象とならない報酬は以下の表の通りです。
随時改定の対象となるもの
金銭で支給 | ・基本給(月給、週給、日給等) ・各種手当(通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、残業手当、休業手当等) ・年4回以上支給される賞与 |
現物で支給 | ・通勤定期券、回数券 ・食事、食券 ・住宅(社宅、独身寮等) |
随時改定の対象とならないもの
金銭で支給 | ・事業主が恩恵的に支給するもの(結婚祝金、病気見舞金、災害見舞金等) ・公的保険給付として受けるもの(傷病手当金、休業補償給付、年金等) ・臨時的、一時的に受けるもの(大入袋、解雇予告手当、退職金等) ・実費弁償金的なもの(出張旅費、交際費等) ・年3回まで支給される賞与等 |
現物で支給 | ・食事(本人からの徴収金額が現物給与価額の2/3以上の場合) ・社宅(本人からの徴収金額が現物給与の価額以上の場合) ・制服、作業服などの勤務服 |
随時改定の3つの条件
随時改定は報酬の変更が発生する度に実施する訳ではなく、以下の3つの条件全てに該当する場合のみ随時改定が行われます。
逆に言うと、報酬に変動があったとしても、以下のいずれか1つでも当てはまらない条件がある場合は随時改定の対象とはなりません。
- 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった
- 賃金変動以降3カ月間の報酬の平均額に基づく標準報酬月額と変動前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたとき
- 3カ月とも支払基礎日数が17日以上ある
以下より、3つの条件について詳しく解説をしていきます。
1. 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった
『固定的賃金』とは、月給や時給、各種手当等、毎月固定で支給される報酬のことをいいます。
主な固定的賃金の変動例は以下のとおりです。
固定的賃金の変動例
- 昇降給による基本給の変更
- 日給や時給等、報酬の基礎となる単価の変更
- 割増賃金率の変更による時間外手当の支給単価または支給割合の変更
- 家族手当や通勤手当等、支給額が固定されている手当の追加や変更、廃止
- 歩合給や請負給等の支給単価または支給率の変更
尚、残業代やインセンティブ等、個人の労働時間や実績に応じて毎月変動するような賃金は『非固定的賃金』のため対象外です。
2. 標準報酬月額に2等級以上の差が生じること
固定的賃金が変動する前の標準報酬月額と、変動月から3ヶ月間の報酬総額の平均月額に該当する標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合は随時改定の対象となります。
ここで注意しなければならないポイントは、3か月の平均報酬月額を算出する際は『固定的賃金だけでなく非固定的賃金も含める』という点です。
尚、2等級以上の差が生じたとしても、以下の場合は対象にはならないため併せて確認しましょう。
- 固定的賃金は増えたが、残業手当などの非固定的賃金が減ったため、
結果として新たな標準報酬月額が2等級以上下がった場合 - 固定的賃金は減ったが、非固定的賃金が増えたため、
結果として新たな標準報酬月額が2等級以上上がった場合
また、標準報酬月額の上限と下限に該当する等級変更では、1等級の変更でも随時改定の対象となる場合もあるため注意が必要です。
※ダウンロード資料 項目名2を参照
3.3カ月とも支払基礎日数が17日以上あること
上記2つの条件を満たし、固定的賃金の変動月から3か月間の支払基礎日数が全て17日以上である場合は随時改定の対象となります。(報酬の変動以降の3か月間のうち1カ月でも17日未満の月があれば、随時改定の対象にはなりません。)
尚、特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上が随時改定の条件となります。
※ダウンロード資料 項目名3を参照
支払基礎日数の数え方は報酬形態によって異なるため、以下の表を参照してください。
支払基礎日数の数え方
完全月給制 (=欠勤控除なし) | 『支払基礎日数』=『対象期間の暦日数』 |
日給月給制 (欠勤控除あり) | 『支払基礎日数』=『所定労働日数-欠勤日数』 |
日給制・時給制 | 『支払基礎日数』=『出勤日数』 ※有給休暇も支払基礎日数に含まれます。 |
また、支給額については支払日(月)をベースとして考えるため、月末締め・翌月15日払いの会社(完全月給制)が3月分の報酬を4月15日に支払う場合、4月の支払基礎日数は31日(3月の暦日数)となります。
随時改定の対象にならない被保険者とは?
上記の3つの条件に該当する場合であっても、休職中で休職給を受けている被保険者は随時改定の対象となりません。
随時改定の手続き
必要書類 | 月額変更届 (健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届)※1 ※1.日本年金機構:随時改定に該当するとき(報酬額に大幅な変動があったとき) |
提出先 | 事業所を管轄する年金事務所または事務センター |
提出期限 | 速やかに |
提出方法 | 郵送、窓口または電子申請 ※資本金などの額が1億円を超える法人、相互会社、投資法人等の一部の法人は電子申請が義務化されています。 |
添付書類 | 原則なし |
尚、会社が加入している健康保険が協会けんぽの場合は協会けんぽへの書類提出は不要ですが、協会けんぽ以外の組合健保、共済組合に加入している事業所は各組合への月額変更届の提出が必要です。
また、年間平均の標準報酬月額で随時改定の申し立てを行う場合には、以下の2つの書類※2の添付が必要になります。
- (様式1)年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
- (様式2)保険者算定申立、標準報酬月額の比較、被保険者の同意等(随時改定用)
※2.日本年金機構:随時改定の際、年間報酬の平均で算定するとき
月額変更届の記入方法
<算定基礎届の作成方法について>
月額変更届の記入の際は特に以下の内容に誤りがないように注意しましょう。
改定年月 | 変動した月の賃金の支給月から4カ月目を記入します。 |
給与支給月 | 変動した月の賃金の支給月から3カ月間を記入します。 |
通過によるものの額 | 名称を問わず対象の月に労働の報酬として金銭で支払われた全ての金額を記入します。 |
現物によるものの額 | 報酬として食事・定期券等の金銭以外で支払われら全てのものを記入します。 |
遡及支払額 | 遡及分の支払いがあった月と、支払われた遡及の差額を記入します。 |
修正平均額 | 昇給が遡ったため対象月に差額分が含まれている場合は、その差額を引いた平均額を記入します。 |
月額変更届の手続きにあたる注意点
随時改定の漏れがあると賃金変動が社会保険料に正しく反映されないことになるため、社会保険料の過払い、不足が発生してしまいます。
月額変更届の提出漏れが発覚した場合は、年金事務所から指摘が入り、該当月から遡及して差額を支払わなければなりません。
社会保険料の計算や届出を遡ってやり直す場合は、手続きも煩雑なため、時間や手間がかかります。
もし、月額変更届の提出忘れ等があった場合は、管轄の年金事務所や事務センター、健康保険組合に確認して指示に従いましょう。
また、提出の漏れ等が起きないよう、従業員の固定的賃金や契約内容の変更があった場合は、その都度、随時改定に該当するかを確認して、発生月の4カ月後を対応日として予めスケジュールを立てておくといいでしょう。
まとめ
随時改定は不定期に発生するため、つい忘れてしまったり、対象者の見落とし等が起こりやすくなります。
そのため、前もって随時改定の対象と範囲を理解し、月額変更届の提出漏れがないように意識することが大切です。
下記の「月額変更届と提出時のチェックリスト」を参考に、提出漏れがないように取り組みましょう。
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