こんにちは。社会保険労務士法人キューズフルです。
労働保険とは「雇用保険」と「労災保険」の総称です。労働保険に加入した年の保険料は加入時に納付しますが、翌年以降は年度末に確定した前年度の保険料と今年度の概算保険料の申告を同時に行う手続きをしなければなりません。この手続きを労働保険の年度更新といいます。
本記事では年度更新の概要や手続き方法、注意点等を解説します。
労働保険の年度更新の概要
提出書類名 | 労働保険年度更新申告書 |
申告書類の提出先 | 労働局、労働基準監督署、金融機関 |
申告期限 | 毎年6月1日~7月10日 |
提出方法 | 窓口、郵送、電子申請 |
申告納付対象 | 労働保険および一般拠出金 |
申告納付が期限に 遅れた場合の罰則 | 追徴金や延滞金が課される可能性がある |
労働保険について
労働保険 | 労災保険 | 業務上の事由により発生したケガや事故、疾病、傷害、死亡等に対して保険給付を行うもの。雇用形態に関わらず労働者を一人でも雇用している事業者は加入が必要。労働基準監督署で加入手続きを行う。 |
雇用保険 | 労働者の生活や雇用の安定、就業の促進を目的として労働者が失業した際等に給付を行うもの。非学生且つ1週間の所定労働時間が20時間以上ある等、一定の条件を満たす労働者がいる場合に加入が必要。ハローワークで加入手続きを行う。 |
労働保険の保険料率
労働保険料は労働者の賃金総額に保険料率を掛けて算出します。
雇用保険は上の表の通り、事業主と労働者の双方が負担する必要があり、事業の種類によって保険料率と負担割合が定められています。
労災保険の料率も労働災害の発生率を基準として業種ごとに定められており、厚生労働省が公開している労災保険率表※1にまとめられています。
※1.厚生労働省:令和5年度の労災保険率について(平成30年度以降変更ありません)
尚、労働保険の年度更新の際には、労働保険料と合わせて一般拠出金も納付する必要があります。
一般拠出金はアスベストで健康被害を受けた人を救済する費用に充てるために全事業主が負担するもので、一般拠出金率は1,000分の0.02となっています。
労働保険の年度更新手続きの流れ
労働保険の年度更新の手続きは以下の流れで進めていきます。
1. 申告関係書類の確認 |
2. 労働保険の対象労働者の確定 |
3. 賃金集計表の作成 |
4. 申告書の作成 |
5. 申告書の提出 |
6. 保険料の納付 |
1.申告関係書類の確認
5月下旬~6月頃に、年度更新に関する書類(緑色の封筒)が管轄の労働局から事業所宛に郵送されますので、届き次第、予め印字されている『会社名、法人番号、労働保険番号、労働保険料率、申告済概算保険料額』等に誤りがないことを確認しましょう。
2.労働保険の対象労働者の確定
①労災保険の対象労働者
常用、日雇、パート、アルバイト、派遣等の雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受け取る全ての者が対象となります。
②雇用保険の対象労働者
雇用される労働者のうち常用、パート、アルバイト、派遣等の雇用形態にかかわらず、1週間の所定労働時間が20時間以上且つ31日以上の雇用見込みがある場合は原則として対象となります。
出向労働者の場合は、出向元と出向先にかかわらず、該当する労働者が生計を維持するために必要な主たる賃金を受けている事業所においてのみ対象となります。
尚、上記の条件を満たしていても以下の労働者は対象にはならないため注意しましょう。
対象にならない労働者
- 季節的に雇用される者であって4ヵ月以内の期間を定めて雇用される者
- 季節的に雇用される者であって1週間の所定労働時間が30時間未満の者
- 昼間学生
3.賃金集計表の作成
前年4月1日から3月31日に賃金を支給した中途採用者や退職者を含む全ての労働保険対象者に支払った賃金総額※2を集計表に記入し、保険料計算の基礎となる賃金総額を集計するための賃金集計表を作成します。尚、作成した賃金集計表の提出義務はありません。
※2.労働保険における賃金総額とは、事業主が労働者に対して名称を問わず労働の対象として支払う全てのものを指し、税金や社会保険料を控除する前の総額のことです。
賃金総額の集計をする際は、労働保険における賃金に含めるものと含めないものを区分し、『賃金に含めるもの』のみを対象としてください。
賃金に含めるもの
賃金に含めるもの | 賃金に含めないもの |
基本給、賞与、通勤手当、残業代、 その他各種手当 | 立替経費、慶弔見舞金、実費弁償金な手当、傷病手当金、解雇予告手当、役員報酬 |
集計した合計額を基に『労災保険対象者分賃金総額を1,000円未満切り捨てした算定基礎額』『雇用保険対象者分賃金総額を1,000円未満切り捨てした算定基礎額』『労災保険対象者数の月平均(常時使用労働者数)』を算出します。
4.申告書の作成
賃金集計表で集計した賃金総額を基に申告書を作成していきます。
申告書の作成方法については管轄の労働局から送付される年度更新に関する書類(緑色の封筒)で説明しているため、こちらも併せて確認しましょう。
5.申告書の提出
申告書を作成したら7月10日までに労働局、労働基準監督署、銀行・郵便局などの金融機関へ提出します。尚、提出方法は窓口、郵送、電子申請です。
また、銀行・郵便局などの金融機関に提出する場合には次の「6.保険料の納付」と同時に行ってください。
電子申請をする際の手順の詳細は、厚生労働省の『労働保険年度更新 電子申請操作マニュアル※3』を参考にしましょう。
※3.厚生労働省:労働保険年度更新電子申請操作マニュアル
6.保険料の納付
保険料を納付する際は原則一括で納付しますが、概算保険料が40万円以上であれば3回の分割納付が可能です。
納付期日は例年、第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が1月31日です。
尚、保険料の納付方法には銀行・郵便局などの金融機関窓口のみならず、口座振替や電子納付もあります。
電子申請について
上述の通り、3通りの申告書の提出方法がありますが、申告書の電子申請が義務化されている法人もあります。
下記表に当てはまる法人の方は電子申請以外での申請は控えましょう。
電子申請が義務づけられている法人
- 資本金が1億円を超える法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
労働保険の年度更新 イレギュラーなケースへの対応方法
労働保険の年度更新の基本的なやり方は上記の通りですが、場合によっては注意しなければならないレギュラーなケースもあります。
下記にてケース別にイレギュラーへの対応方法について紹介しているので確認しましょう。
①雇用区分や賃金の種類によって支払日が異なるケース
賃金の集計をする際は『労働日ベース』で考えるため、確定保険料の申告では『4月1日〜翌年3月31日までの労働』に対して支払われた賃金の総額を用います。
したがって、当月末日締め翌月25日支払いで給与計算を行っている法人の場合は、『5月25日支払い分〜翌年4月25日支払分』が集計対象となります。
その中でも『正社員は当月末締め翌月25日支払い / アルバイト社員は当月20日締め当月末日支払い』のように雇用区分により締め日と支払日を分けている際は、集計対象となる賃金台帳の期間が異なるため注意が必要です。
また、同一の従業員に対して『基本給などの固定的賃金は当月25日支払い / 残業代や通勤手当などの変動的賃金は翌月25日支払い』のように同じ労働日に対する賃金が分かれている場合も気をつけましょう。
②事業所が複数あるケース
労働保険は会社単位ではなく事業所単位で加入する必要があります。そのため、支店や店舗等、複数の事業所を有する会社はそれぞれの事業所ごとに年度更新を行わなければなりません。
しかし、同一の事業主且つ労災保険料率で定める事業の種類が同じ事業所の場合は、要件を満たせばまとめて手続きすることが可能です。これを『継続事業の一括』と呼びます。
一括で申告する際は、事前に継続事業の一括申請の手続きが必要なため、あらかじめ労働局のHP等で要件を確認したうえで届出を行いましょう。
③年度途中で各種変更や廃止があるケース
年度の途中で名称や所在地などを変更したり事業を廃止したりする場合は、原則10日以内での変更届の提出が必要です。
管轄外への住所変更をする場合は、管轄の変更と同時に労働保険番号も変わるため、年度更新時は最新の情報を記載するようにしましょう。
事業を廃止した場合は、廃止した日までに支払った賃金総額を基に確定保険料を計算して50日以内に確定保険料を申告・納付します。
尚、書類の作成方法は通常の年度更新における確定保険料部分と同じです。
労働保険の年度更新における注意点
◎手続きが遅れると追徴金が課される場合も
年度更新は毎年6月1日から7月10日の間に行う必要がありますが、手続きが遅れると労働保険料は国により決定され、さらに追徴金が課される場合もあるため注意が必要です。
尚、日頃から適切に賃金台帳を作成していれば、賃金額の集計はさほど難しいものではないため、毎年6月に慌てることがないように毎月の帳簿作成を正しく行うよう心がけましょう。
◎還付金があるときは別途手続きが必要
労働保険料に還付額がある場合は別途、『労働保険料・一般拠出金還付請求書』を労働基準監督署又は都道府県労働局に提出する必要があります。
上記のような、年度更新のお手続きも当法人でサポート可能ですので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせくださいませ。