人材開発の担当者は研修を企画する前に、自社の従業員を「どのような人材育成・人材開発をしたいのか」を明確に定義する必要があります。事前にゴールを定めて計画を進めることが、研修において必要な手順になるでしょう。
以下では、研修を企画するにあたって行うべき、どのような人材育成・人材開発をしたいのかを明確化する重要性を解説します。
人材開発に関わる3つのゴール
人材開発を実施する際には、次の「3つのゴール」が重要となります。
- 長期的なゴール:経営層が社員に求める理想の人材像を設定する
- 中期的なゴール:3年程度の計画で、適切な段階を経て社員がどのように成長することが望ましいのか、具体的な姿を設定する
- 短期的なゴール:入社1ヶ月後は○○、3ヶ月後は○○、6ヶ月後は○○、といったように細かく期間を刻んだゴールを設定する
人材開発の担当者はこれらの要素を把握することで、効果的な研修を設計して役割を果たすことが可能になるため、まず最初のステップは、「成長のゴールをしっかりと定めること」です。
ここまで繰り返しお伝えしたように、人材開発におけるゴールが明確に定まっていないと、課題の解決につながる最適な取り組みを実践することは難しくなります。人材開発の担当者がゴールを設定して、最初のボールを投げない限り、研修会社の担当者との「共同作業」は始まりません。
そのため、まずはゴールを設定することが、人材開発の担当者が行うべきプロセスになります。「長期的なゴール」「中期的なゴール」「短期的なゴール」それぞれの内容を明確に言語化することが、担当者とのキャッチボールをスムーズに行うポイントです。
人材開発の現場では、この「3つのゴールを明確にすることが最初のステップ」になります。
「長期的なゴール」とは
まず「長期的なゴール」には、経営層が社員に求める理想的な人材像を設定しましょう。
ある程度の時間をかけて理想像とマッチする人材への成長を促すには、多額のコストと時間が必要になります。しかし、多くのコストをかけたことで従業員が期待通りの成長を見せてくれるのなら、将来的に組織への大きなリターンとなり、具体的な成果につながります。そのため人材開発の担当者は長期的なゴールを設定し、経営層が求める熱意に応える必要があります。
具体的には、会社のゴールイメージ(例えば、企業理念)から逆算して、部門ごとに求められる仕事の内容や、どんな仕事をどのレベルで行う必要があるのかを分かるようにし、その上で必要な知識・スキルや経験を洗い出していきましょう。
そのためにも人材開発の担当者は「長期的なゴールとは何か」という点を理解し、実践していく準備が必要です。
「中期的なゴール」「短期的なゴール」とは
企業の経営者や組織にとって、理想の人材を一人でも多く排出していくことが、人材開発の担当者に期待される仕事です。そしてゴールを達成するためには、具体的な「戦略」が求められます。
人材開発とはまさにこの戦略を意味するものであり、担当者であるあなたが軸となって経営層からの指示を受け、中期的な視点から従業員の成長プロセスを考案するのが基本です。多くの企業では、3年程度の中期計画が掲げられています。
3年間でどのような成長を従業員に促して期待するのかが、人材開発の担当者が考えるべき基本的な戦略です。この3年後のビジョンを形成する「中期的なゴール」こそが、2つ目のゴールです。中期的なゴールには、いきなり到達することはできません。
1年目・2年目・3年目といったそれぞれの段階を経て、必要なプロセスを消化していく必要があります。さらに人材開発の担当者は、従業員の経験や能力といった要素によって、「適切な段階が異なること」を理解することも必要です。
それぞれの従業員にマッチした最適なルートの準備ができないと、中期的なゴールの達成は困難となるでしょう。例えば3年目の従業員なら、具体的なキャリアプランを見据えたスキルの獲得などが中期的なゴールとして考えられます。6年目の従業員であれば、組織を動かすリーダーシップの獲得などが候補に挙がるでしょう。
このように従業員それぞれのゴールは、「短期的なゴール」に分類されます。中期的なゴールを達成するための小目標として、短期的なゴールを活用することが求められるでしょう。そしてこの短期的なゴールこそが、人材開発における個々の取り組みにつながります。
人材開発をマラソンとして考えるのなら、最終的な「理念」の実現は42.195km先にあります。そして5kmや10km地点が中期的なゴールになり、そこまでどの程度の時間・コストがかかったのかは従業員の成長を測定する重要な指標となります。短期的なゴールはさらに短く、1kmごとに刻むタイムが該当します。
人材開発の担当者はこのようにマラソンをイメージして、「中期的なゴール」と「短期的なゴール」を考案し、人材開発という長距離レースを走り抜くことが求められます。従業員ごとのペースメーカーを担当すると同時に、1kmごとのタイムを測るタイムキーパーとしての役割も人材開発の担当者が担います。
人材開発の取り組み時には「目標」=短期的なゴールの実現を目指すことが重要
先に例えたマラソンで言うと、1kmごとのタイムに最適な時間を設定することで、従業員に現実的でわかりやすい「目標」を提示できます。早すぎる目標は後半の息切れを誘発し、遅すぎる目標はラストスパートをかけるための勝負に持込めない可能性を高めます。
だからこそ人材開発の担当者は、従業員ごとに最適な目標を設定することが求められます。若くして成功した人が、その後も順調に走り続けて社長になれるとは限りません。スタートダッシュに失敗しても、そこから巻き返して先行する人たちを追い抜いていくケースもあります。
あらゆるパターンが考えられるからこそ、人材開発の担当者が率先して従業員を支援していくことが必要です。従業員のなかには自分ですべてを管理できる人もいますが、自己管理だけで長い人生を乗り切れるケースは少ないです。
その点を考慮して、人材開発の担当者は目標を実現できるように、個々の取り組みに力を入れることが重要です。例えば現在の1kmのタイムを参考にして、次の1kmのタイムをどのくらい縮めていくのかを設定することが大切です。
その先に見えるものが、個々の人材開発の取り組みにおける目標であり、人材開発を全体的な観点で捉えた場合の短期的なゴールです。このような性質を持つことから、従業員の力やモチベーションなどの違いによって、最適なゴールの形は変わります。
従業員ごとのゴールを設定して明確な目標を示し、たどり着くために必要な知識・経験を与えるプロセスを準備するのが、人材開発の担当者の仕事です。その手段の1つとして、研修といった方法が挙げられます。
人材開発の担当者は複数の選択肢を把握したうえで、個々のゴールに最適な手法を選び、取り組みの効果が最大化するように努力することが求められるでしょう。ここで実践した努力によって見つけた答えは、人材開発の担当者が「最初に投げるべきボール」となります。
「従業員が3年後にどのような人材になって欲しいのか」「3年後の目標を達成するためには1年後にどの程度の成長が必要なのか」といったこと具体的にイメージし、明確な形とすることで従業員の成長は確実なものとなります。そういった環境整備も、人材開発の担当者の重要な役割です。
そのうえで目標および短期的なゴールの実現を目指すことが、人材開発の取り組み時における担当者の重要な任務となるでしょう。
人材開発では「引き算」が欠かせない
多くの企業では、従業員に求める能力・行動発揮の在り方を、職能などに基づいて具体的に示す努力を実施しています。つまり、「ゴールに向けた引き算」ができるように、「引かれる数」を明示することが重要となるのです。研修を設計するうえでも、この「引き算」の考えは欠かせません。
「引き算」では短期的なゴールを達成するのに何が足りないのか、どのようにして不足している要素をカバーしていくのかを検討します。検討した結果を研修のゴールやコンセプト、カリキュラムなどに落とし込んでいくプロセスが、真に効果的な研修を設計するための行動につながります。
そして人材開発の担当者がすべきことは、「引かれる数」を隅々まで把握し、理解することです。会社が想定している理想の人材像を完璧にインプットし、それぞれの段階で求められる知識・スキルなどを確認し、現状を分析することがポイントです。
ここまで解説してきたプロセスを無視して設計された研修は、ほぼ100%失敗します。400m走のペースでフルマラソンは完走できないことを重々承知したうえで、計画的にゴールからの「引き算」を行い、個々の従業員に合わせたペースを設定するのが人材開発の基本です。
だからこそ人材開発では、「引き算」という考え方が欠かせなくなっています。
まとめ
人材開発の担当者は、「どのような人になって欲しいのか」といった点を明確にして研修に臨む必要があります。そのためには「長期的なゴール」「中期的なゴール」「短期的なゴール」の3つのゴールを理解し、それぞれに合わせた設定を考えることがポイントです。
次回の投稿では、「ゴールがなく人材開発を行った研修の失敗事例」を解説します。