【人材開発Vol.8】研修の内製化/外注の判断の際に考えるべきポイント

研修を行う際には、「リアルでの実施」と「オンラインでの実施」など学習方法について考える必要があると前記事で解説しました。しかし、そのほかにも研修をする際には、「内製化するか/外注するか」を決めることも重要です。内製化して従業員が講師を務めるのか、外注してプロ講師から指導を受けるのか、事前に決める必要があるでしょう。

以下では、研修を内製化するか外注するかの判断方法について解説します。

研修における内製化・外注の「すみ分け」が重要

社内研修を実施する際の「内製化すべきなのか、外注すべきなのか」といった問題点に対する明確な指針はありません。そのため人材開発の担当者は、さまざまな要素を考慮して、研修の内製化と外注を天秤にかける必要があります。研修の内製化と外注には、それぞれメリット・デメリットがあります。

研修を内製化することは、企業理念の点から考えると、理想的な形とも言えます。

会社に所属している従業員だからこそ、現状の課題の本質を見抜き、適切な解決策を提示できる可能性が高まります。効率良く解決策を提示できれば、結果的に学習効果を高められるほか、研修コストも抑えられるメリットがあります。

一方で、従業員だからこそ当たり前に感じている「先入観」の排除が難しい点は、内製化のデメリットです。先入観は課題の本質を見極める邪魔となり、解決までの流れが滞る原因になり得ます。内製化した研修では、全員が同じ職場に所属しているため、この先入観に気づけないケースも多いです。

そのため、研修を外注し、先入観のない外部の人間を活用し、些細な違和感も見逃さない体制を構築することも、重要視されています。以前にもお伝えしたように、「とりあえず研修を実施する」という決断は悪手です。同時に「すべて外注する」という手段もまた、研修における適切な手法とはかけ離れていると言えます。

必然性のない研修でコストをかけることにメリットはありません。内製化と外注のどちらにも、メリットとデメリットがあります。大切なのはそれぞれの特徴を把握し、2つの最適な組み合わせ方を考えることにあります。

社内研修と外注の「すみ分け」を行い、その区分を正確に見極めることが、人材開発の担当者に期待される要素です。研修における内製化・外注の「すみ分け」を意識し、最適な学習環境を構築することが求められるでしょう。

研修を内製化/外注するかの「住み分け」のポイントはこちら

研修を内製化するか外注するかの判断は、組織の状況や目標によって異なります。以下は、住み分けの判断をする際に考慮すべきポイントです。

1.専門知識とリソースの有無

  • 内製化: 組織内に専門のトレーナーや研修担当者がいて、必要なリソースや施設が利用可能である場合、内製化が有益です。
  • 外 注: 必要な専門知識や経験が不足している場合、外部のトレーニングプロバイダーを利用することが適しています。

2.予算

  • 内製化: 研修プログラムを開発・実施するための予算やリソースが確保できる場合、内製化することでコストを下げられます。
  • 外 注: 外部のプロバイダーに委託する場合、そのサービスにかかる費用や追加費用を考慮する必要があります。

3.スケーラビリティと柔軟性

  • 内製化: 変更やカスタマイズがしやすく、組織のニーズに柔軟に対応できる利点があります。
  • 外 注: 外部プロバイダーは特定のプログラムや形式に基づいていることがあり、柔軟性が制限される可能性がありますが、一方で即座にスケールできる場合もあります。

4.品質と信頼性

  • 内製化: 組織内でトレーニングプログラムを管理できる場合は、品質と信頼性を確保しやすいでしょう。
  • 外 注: 信頼性の高い研修会社を選択することで、高品質な研修を提供してもらえます。

5.時間の制約

  • 内製化: プログラムの開発や実施に十分な時間がかかる場合があります。
  • 外 注: 企業研修会社に依頼すれば、迅速にプログラムを提供できることがあります。

6.戦略的目標と合致

  • 内製化: 組織の戦略や文化に合ったトレーニングプログラムを開発できます。
  • 外 注: 他のプロバイダーが提供する研修が、組織の戦略的な目標と一致しているか確認する必要があります。

これらのポイントを考慮し、組織の状況や目標に合わせて内製化か外注かを選択することが重要です。また、柔軟なアプローチを取り、必要に応じて内製化と外注を組み合わせることも検討されるかもしれません。

研修内容における内製化/外注の判断も実情によって異なる

先の章で解説したように、研修における内製化/外注の判断のポイントは、どこに「力点」を置くかで変わります。従業員だからこそ「わかる部分」を重要視するのか、従業員の先入観が生み出す「見過ごす部分」を解消するのか、どちらに比重を置くかで研修内容は変化します。

ここで大切なのは、「研修の先にどのようなゴールを設定するのか」という問題です。

たとえば、研修の先が「論理的な思考力を身につける」というゴールの場合、詳細なゴール設定と対象者による内製化/外注の判断事例を考えてみましょう。

論理的思考力研修の内製化のゴールが
「カスタマイズされた組織の課題に対処するため」だった場合

  • ゴール: 組織内の従業員が特定の業界や事業において発生している論理的な課題に対処できるようにする。
  • 対象者: 組織内の従業員全体または特定の部門。組織の特有の課題や論理的思考の要件に焦点を当て、具体的な業務に適用可能なスキルを身につける。

従業員により効果のある形で論理的な思考方法を学んでもらうには、実際に現場に立って経験を積んでいくことが必要です。現場で活用できる思考力を身につけなければ、研修の効果を実感できません。そのため、この場合には、内製化による研修が適していると考えられます。

論理的思考力研修の外注のゴールが
「汎用的で広範な論理的思考スキルを向上させるため」だった場合

  • ゴール: 論理的思考力を持つことが求められる広範な状況に対応できるようにする。
  • 対象者: さまざまな業界や組織から参加するグループ。外部のトレーニングプロバイダーが提供する一般的な論理的思考の原則やスキルに焦点を当て、異なるバックグラウンドを持つ人々に適用可能なスキルを提供する。

一方で、内製化の前段階として「汎用的で広範な論理的思考スキルを向上させる」ことが必要だった場合は、まずは「論理的思考力をフレームワークやグループワークにより学ぶ機会を、外部から講師を招いて、さまざまな事例を紹介してもらう勉強方法が考えられます。

外の情報を積極的に取り入れることで、論理的な思考力の活かし方について、それぞれの従業員が考えるきっかけを得られるでしょう。そのためこの場合においては、外注での研修にメリットがあると言えます。

このように研修における判断は、実情によって異なるケースがほとんどです。

同じゴールを設定しても最適な研修方法は変わる

同じゴールを設定しても、条件やプロセスが違うのなら、最適な研修方法も変化します。研修会社に対して、「企業理念を浸透させ、従業員を激励してほしい」といった要望がされるケースは多いです。上司がどれだけ口を出しても、豊富な経験を持つ従業員はそのプロセスに慣れているため、アドバイスや激励の効果が薄まる可能性があります。

そのため従業員同士での研修では、閉塞した状況を改善できないケースも多いです。そこで外注したプロ講師に、厳しいコメントで喝を入れてもらう方法を取る会社も珍しくありません。この方法では、当然ながら従業員から強い反発を受けることが予想されます。

しかし、外部への反発は行動を改善するためのエネルギーになり、状況を変化させるきっかけになり得ます。そこまで含めて研修会社と人材開発の担当者がすり合わせを行い、外注先の講師に嫌われ役もしくは指導役を演じてもらえれば、ゴールを達成できる可能性が高まるでしょう。

このように研修で実現したい内容によって、さまざまな方法が考えられます。「何を実現したいのか」「どんな課題を解決すべきなのか」を掘り下げて明確にできれば、判断に必要なポイントが見えてくるでしょう。しかし、外部の講師も1人の人間であり、万能な能力を持っているわけではありません。

そのため講師の力を最大限に発揮してもらうために、講師のスキルと特徴が自社の研修におけるゴールとマッチしていることを確認する必要があります。このマッチングを適切に行うには、人材開発担当者と研修会社による、「共同作業」の実施が不可欠です。

先の章で解説したように、人材開発担当者が独断で行動しても、成果は得られません。同様に、研修会社に丸投げしても、高い効果を得ることは難しいです。そのため、会社が抱える実情を共有したうえで内製化と外注のすみ分けを実施し、バランスを取っていく必要があります。

同じゴールを設定しても、向かっていく際のプロセスが異なれば、最適な研修方法も変わるという点は、しっかりと把握しておきましょう。

まとめ

研修を実施する際には、「内製化」と「外注」の判断が必要です。しかし、研修の内製化と外注を判断する要素は不明確であるため、「〇〇だから内製化すべき」「〇〇したいなら外注が最適」といった、わかりやすい答えはありません。

そのため人材開発担当者や人事・総務担当者は、研修における内製化と外注のメリット・デメリットを把握し、適切な形ですみ分けができるように準備するのがポイントです。

研修を外注するか判断が不明確なときには、まず会社の実情を確認し、最適な方法を導き出すことが重要です。

次の章では、「どのような人材育成・人材開発をしたいのかを明確にしよう」をテーマに、どのような人になって欲しいのかを明確にする重要性について解説します。