【人材開発支援助成金とは】5つメリットと注意点を解説

時代の変化にともない、技術革新などの変化に対応するためには新しい知識やスキルが必要です。しかし、知識や技術を習得するためのリスキリングを導入するには、企業にとって負担が大きいケースもあるでしょう。

厚生労働省は、従業員に対して研修や訓練を実施する企業の負担を軽減するため「人材開発支援助成金」の制度を設けています。これにより、企業は従業員のリスキリングを実施する際にサポートを受けられます。

この記事では、人材開発支援助成金についてくわしく解説するとともに、5つのメリットと注意点をお伝えします。

人材開発支援助成金とは

厚生労働省のホームページを見ると、人材開発支援助成金とは「事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度」と説明されています。

リスキリングの導入を検討している企業にとっては、国からのサポートを受けて自社の人材育成に注力できる制度といっていいでしょう。

引用:人材開発支援助成金|厚生労働省

概要

人材開発支援助成金は、労働者が専門的な知識やスキルを習得しキャリア形成を支援する制度です。具体的には、職業訓練を実施した際の経費や訓練期間中の賃金の一部が、各都道府県の労働局から助成されます。受給するには、以下の3つの要件を満たしていなければなりません。

  1. 雇用保険の適用事業所である
  2. 支給審査への協力
  3. 期間内の申請

また、人材開発支援助成金を受給するには、以下の7つのコースがあります。

  1. 人材育成支援コース
  2. 教育訓練休等暇付与コース
  3. 人への投資促進コース
  4. 事業展開等リスキリング支援コース
  5. 建設労働者認定訓練コース
  6. 建設労働者技能実習コース
  7. 障害者職業能力開発コース

このように、目的によって異なる訓練を受けられるコースが用意されています。

支援目的

人材開発支援助成金の目的は、国のサポートによって企業が従業員のキャリアアップや人材育成の取り組みをしやすくするためです。人材を育成するには、リスキリングなどを実施し、従業員が受講できる体制を整えるなど、さまざまな取り組みをしていかなければなりません。

企業の従業員数が多ければ、より費用もかかり企業の負担が大きくなるでしょう。しかし、企業が成長して経済を安定させるためには、人材育成は重要な取り組みです。

対象者

人材開発支援助成金制度の対象者は、雇用保険の被保険者です。すなわち、正規雇用労働者でなければ助成金は支給されません。正規雇用労働者のスキルアップを目指し、企業の成長をサポートするのが支援目的です。

目的に沿った訓練内容になっていなければ、助成対象にならないケースもあります。従って、企業はどのような能力開発や人材育成が自社に必要かを明確にしたうえで申請しなければなりません。

キャリアアップ助成金との違い

「人材開発支援助成金」と「キャリアアップ助成金」は、同じもののように理解してしまう方も多いかもしれません。しかし、以下の点から違う制度であるのがわかります。

制度対象者目的
人材開発支援助成金雇用保険の被保険者労働者の育成・教育を行う企業をサポートする制度
キャリアアップ助成金・有期契約労働者(パート・アルバイト・派遣社員・契約社員など)
・無期雇用労働者
有期契約労働者などの、企業内でキャリアアップを促進するための制度

人材開発支援助成金の対象となるコース

人材開発支援助成金の制度を利用できる対象の訓練コースは、7つあります。それぞれのコースで要件は異なり、助成される金額も変わってくるでしょう。支給に関するさまざまな注意事項や制限があるほか、申請の際には職業能力開発計画や教育訓練計画の作成などが必要です。

企業は、従業員の業務に関する知識やスキルを把握し、必要な訓練が実施できるように申請しなければなりません。ここでは、対象となる7つのコースを解説します。

人材育成支援コース

以下の3つの訓練を実施した際に、人材育成支援コースの対象として助成されます。

  • 雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練
  • 厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練
  • 非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練

これらを実施した場合に、訓練にかかる費用や訓練期間中の賃金の一部が支援されます。

教育訓練休暇付与コース

企業は、自発的な教育訓練を受けるために必要な休暇を従業員に与えた場合に「有給教育訓練等制度」を申請できます。従業員が実際に有給教育訓練等休暇を取得した場合、導入経費と教育訓練休暇中の賃金の一部が助成されます。ただし、業務命令で受講させる訓練や検定、キャリアコンサルティングは助成金の対象にはなりません。

人への投資促進コース

高度デジタル人材の訓練・成長分野等の人材訓練では、海外を含む大学院での訓練を行う事業主に対して助成されます。また、情報技術分野認定実習併用職業訓練では、IT分野未経験者の即戦力化のための訓練を実施するための費用を助成します。

人への投資促進コースでは、労働者の多様な訓練の選択・実施を可能とする「定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)」を利用する事業主に対しても助成されます。柔軟な訓練形態も助成の対象になっているのがわかります。

事業展開等リスキリング支援コース

企業の持続的発展のため、新製品の製造や新サービスの提供等により新たな分野を展開する企業を支援するためのコースです。デジタル・グリーンといった成長分野の技術を取り入れるための人材育成にかかる経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

新規事業展開の検討や、DX推進を積極的に進める企業が活用できるコースです。

建設労働者認定訓練コース

認定職業訓練または指導員訓練のうち、建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受けさせた場合の訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

建設労働者技能実習コース

足場の組立て等作業主任者技能講習や、低圧電気取扱業務特別教育などの講習会が対象になるコースです。企業が雇用する建設現場の労働者に、スキルアップのための実習を受講させた場合、訓練費用や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

障害者職業能力開発コース

障害者の職業に必要な能力を開発し向上させるために、一定の教育訓練を継続的に実施する施設を設置して運営する場合、その費用の一部が助成されます。

人材開発支援助成金のメリット

従業員1人ひとりの生産性が高まれば、企業は成長します。現代のビジネスシーンで活躍できる生産性の高い従業員を育成するには、リスキリングを導入するなどの取り組みが必要でしょう。国からの支援である人材開発支援助成金の制度を利用すれば、人材育成をより積極的に進められるのではないでしょうか。

ここでは、人材開発支援助成金のメリットをくわしくお伝えします。

①生産性の向上

従業員1人ひとりの知識やスキルが向上すれば、より効率的に業務が進み結果として生産性が向上するのはいうまでもありません。人材開発支援助成金の支給対象となる訓練はいくつかあり、目的に沿った訓練内容であれば助成の対象です。

従業員の保有スキルを把握し、業務に必要な新たな知識やスキルを身に付けていけば、従業員のモチベーションも上がり生産性だけでなく採用率や定着率も上がっていくでしょう。

②コストをおさえた人材育成が可能

人材開発支援助成金の制度の利用は、研修や訓練を実施する際のコストが抑えられます。複数の従業員に対して、知識やスキルを向上させるための研修は、費用面で大きな負担になるのは予想できるでしょう。

人材開発支援助成金が受給できる対象となる研修は、実施するときに発生する経費や従業員の賃金の一部が助成されます。

研修や訓練の条件によっては、費用の最大75%助成されるコースもあり、少ない負担で企業の成長が期待できます。

③従業員のキャリアアップが可能

人材育成を積極的に取り組めば、従業員の知識やスキルが向上しモチベーションは高まります。個々の意識が上がれば、業務の進め方が改善されたり処理能力も高まったりするでしょう。同時に、従業員のキャリアアップに対する意欲も出てきます。

人材開発支援助成金の制度を利用した訓練コースを受講して、従業員の業務に関する技術が向上すれば、社内で優秀な人材を確保できます。また、訓練で培われた技術などが発揮できる場があり、従業員の評価が上がれば、その人材は企業にとっては大きな財産となります。

④企業の成長

従業員の仕事に対する意識が高まれば、企業としての成長も期待できます。従業員が研修などで身につけた知識やスキルを活用する場を設ければ、仕事に対するモチベーションも上がります。人材開発支援助成金は、従業員だけではなく、人材育成に積極的な企業の双方にメリットがある制度といっていいでしょう。

⑤返済不要

人材開発支援助成金は、融資ではありません。原則として返済不要のお金を受け取れます。また、雑収入として計上が可能なため「本業以外の収益」の扱いをします。返済不要の人材開発支援助成金は、リスキリングで人材育成を積極的に進めていきたい企業にとっては大きなメリットです。

人材開発支援助成金のデメリット

人材開発支援助成金は、メリットばかりではありません。基本的に助成金や補助金は後払いです。計画が承認されてから訓練を実施し、かかった費用は立て替えなければなりません。立て替えられるだけの資金がなければ、制度の活用は難しいでしょう。

また、年度によって申請要件は変更されます。制度の見直しでコースが廃止されるケースもあります。人材開発支援助成金の制度を利用する際は、募集要項のチェックなど確認に時間と手間がかかります。

人材開発支援助成金を受給する際の注意点

正規雇用の従業員の知識とスキルの向上を促す人材育成には、人材開発支援助成金の制度をぜひ利用したいものです。しかし、実際に利用する際はいくつかの注意しなければならない点があるでしょう。ここでは、人材開発支援助成金を受給するときの注意点を解説します。

申請に時間がかかる

助成金が支給されるまでには時間がかかります。また期限内に提出するため、申請に必要な書類を準備しなければなりません。通常業務で忙しい場合は、外部のサポート機関を活用するなどの検討が必要です。

研修中は人手不足になる

正規雇用者である従業員が研修や訓練を受けている期間は、従業員は通常の業務ができません。そのため、訓練実施中は人手不足が発生してしまいます。人材開発支援助成金を活用するときは、通常業務が停止しないように人材を確保してから計画的に進めていきましょう。

コースによって要件が違う

人材開発支援助成金の制度のデメリットともいえるのが、コースによって要件が異なる点です。年度によって要件が変更されたり、制度そのものの見直しでコースの新設や廃止されたりなどのケースがあります。したがって、どのコースの対象になるのか、訓練を計画する段階で募集要項をしっかり確認する必要があります。

対象訓練以外には支給されない

人材開発支援助成金が受給できるのは、前述した7つのコースに該当する訓練だけです。当然、対象の訓練以外で助成金は支給されません。また、訓練の実施時間や従業員の雇用形態、年齢などの細かい条件が定められています。申請の際は対象の訓練の条件を確認して確実に受給できるようにしましょう。

まとめ

厚生労働省は、従業員に対して研修や訓練を実施する企業の負担を軽減するため「人材開発支援助成金」の制度を設けました。時代が変化していくなかで、技術革新などの変化に対応するためには新しい知識やスキルが必要です。知識や技術を習得するためのリスキリングを導入するには、経費の負担を抑えるためにも活用すべき制度です。

この記事では、人材開発支援助成金について詳しく解説するとともに、5つのメリットと注意点をお伝えしました。ぜひ人材開発支援助成金の制度の活用を検討されている方は参考にしてください。

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