【人材開発Vol.5】人材を大切にする会社は成長する

会社が成長するためには、「人材」が不可欠です。そのため人材を大切にしない、できない会社は、成長の機会を逃すことになるでしょう。経営者や人事・総務担当者は、人材の大切さを理解し、個人の能力を活かすための地盤を整えることが重要となります。

本記事では、以下では、人材を大切しない会社はなぜ成長しないのか解説します。

会社が成長するために必要な資源は、自社の人材の「個人としての能力」

経営者や人事・総務担当者は、人材開発を取り巻く現状を把握し、ポイントを理解する必要があります。成長する会社には、「明確な評価制度や人材を育成するための教育制度の充実」といった、人材を大切にする組織風土が必ずあります。テクノロジーの発達によって、多くの事業が技術を必要とする昨今でも、ビジネスは基本的に人と人との関係が前提にあるからです。

ビジネスは、常に人間同士のやり取りで、互いの問題を解決し合うものであり、それゆえにどれだけテクノロジーが進んでも、人材の重要性は変わらないと考えられます。しかし、個々の人材が持つ能力が低いままでは、仮に最適な仕組みを構築できても、会社の力は向上しないでしょう。

まず会社の地盤として、自社の人材の「個人としての能力」があり、それを最適な方法で会社の成果に結びつけ、組織力を最大まで高める取り組みを実践することが求められます。従業員の「個人としての能力」に注視できない会社は、ビジネスに欠かせないこの地盤を築くことができません。

「会社が成長するために必要な資源は、自社の人材の『個人としての能力』である」点を、最初に理解することがポイントです。

人材は会社にとって大切な「財産」である

人材という言葉は、ときに「人財」と表記されることがあります。人材が会社にとって大切な「財産」であることを明確にし、その必要性を社内で共有するために、「財」という文字を使用することも多くなってきています。会社を支える人材をより強く、人財として大きな存在とするためには、人材開発への積極的な投資が必要になります。

人材開発への積極的な投資は、研修会社への依頼料や人材開発担当者の人件費など、さまざまな形をとって会社のコストになります。これらのコストは、決して安い金額ではありません。

しかし、会社はそのコストを負担してでも、財産となる人材への投資を止めてはいけません。それは、会社が成長するために必要な資源は、自社の人材の「個人としての能力」であり、「個人の成長が、会社に大きな成長をもたらし、より大きな利益となって返ってくる」からです。

ただし、会社の資金には限界があるため、人材のための無尽蔵に投資を続けることはできません。そのため、人材開発支援助成金などの制度を活用し、研修一つひとつの内容を精査して、費用対効果を高めることが重要となっています。

現代はAI(人工知能)を活用することがスタンダードになりつつありますが、先に解説したように、どれだけ高度なテクノロジーが生まれても、ビジネスにおいて人材開発の重要性が揺らぐことはありません。

人材開発の担当者はこの点をしっかりと理解したうえで、研修会社との共同作業で会社を支える人材の成長を促すことが重要です。人材は会社にとって大切な「財産」であることを、改めて把握しましょう。

会社の成長が止まる=現状維持は「離職率の増加」につながる

会社の成長が止まる理由はさまざまあります。景気・人手不足・事業の失敗など、あらゆる要因が会社の成長を鈍化させ、止めてしまう可能性を持っています。会社の成長が止まるということは、「現状維持の状態になる」という見方も可能です。

日本語には「伸び悩む」という言葉があるため、「成長が止まる=プラスの効果を得られない」という認識を持っている会社も多いです。成長が止まることを現状維持と同義で捉えることは、決して間違いではありません。

しかし、仮に成長が止まる理由が「人材の成長を促していないこと」である場合、現状維持からさらなるマイナスに転ずるリスクが高まります。特に問題視されるのが、「離職率の増加」です。

従業員が働く理由も下記のようにさまざまです。参考:内閣府「国民生活に関する世論調査」

18歳以上の男女が考える「働く目的」に対する回答

  • お金を得るために働く:56.4%
  • 生きがいを見つけるために働く:17.0%
  • 社会の一員として、務めを果たすために働く:14.5%
  • 自分の才能や能力を発揮するために働く:7.9%

このように、さまざまな理由が人の働く原動力となります。半数以上の人が「お金を得るために働く」と考えていることはわかります。ただし、年齢やその人が置かれている状況によって、それぞれ「働く目的」の回答に傾向が見られ、離職率が高い原因には、下記のようなものが理由として挙げられます。

離職率が増加する原因

離職率が高いと、人材の確保や既存社員の負担増加など、企業にとってさまざまな問題点が生じます。厚生労働省が発表した「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、離職率が高い原因には、主に以下のようなものを理由として挙げています。

  • 職場環境が整っていない:男性8.0%、女性10.1%
  • 会社の将来性に不信感を抱いている:男性6.3%、女性4.5%
  • やりがいを感じられていない:男性4.3%、女性4.8%
  • 給与面などに不満がある:男性7.7%、女性7.1%

一般的に「お金を得るために働く」と答える人が多い中でも、給与が高いだけでは人は定着しない傾向にあり、任された仕事内容と能力にギャップが生じたり、興味を持っている業務に携われる可能性が低くかったりすると、働き続けるモチベーションが上がらず、キャリア構築に制限を感じて、離職率が増加しやすくなります。

また業績が低迷して回復が見込めない場合、業界自体の衰退・業界の変化に対応できていない場合、古い体質が残っている場合にも離職する人が多いようです。

自身の成長と会社の成長を実感できる会社でない場合、従業員の定着率が低下し、離職者が増加する可能性があります。人材が離れれば、自然と会社を支える地盤が緩くなり、結果的に成長に大きなマイナス効果を与えるケースは容易に想像できるでしょう。

そのため、会社の成長が止まることは、離職率の増加だけでなく、「さらなるマイナス」に繋がると考えられます。

「この会社にいても成長できない」と考える人材をなくす

転職を経験した人材の多くは「この会社で働いても成長できないと実感したから転職を決意した」といった理由を口にします。そして、このような動機によって転職を成功させた人たちの多くは、転職先で自己成長に成功し、会社への貢献も実現できています。逆に言えば、このような成長意識を持つ人材を逃した会社は、人材を成長させる仕組みが整っていない状態と言えるとともに、会社の成長が止まる要因を抱えているため、いずれ大きなマイナス効果に悩むでしょう。

そのため人材開発担当者および人事・総務担当者は、「成長できない」という理由で離職する人材を作らない工夫が何よりも重要となります。特に能力が高い人材ほど、現状を正確に分析し、自身の成長につながるかを考える傾向にあります。

人材開発担当者および人事・総務担当者は、優秀な人材の流出を止めるために、さまざまな施策を実践することが求められるでしょう。人材開発における取り組みが活性化すれば、従業員は自身の成長を実感しやすくなります。会社への信頼も高まり、結果的に会社そのものの成長を促進させるでしょう。

人材を大切にし、その個人の成長を促すことが、最終的に会社が成長するきっかけになります。会社間の競争に勝ち抜くためにも、「この会社にいても成長できない」と考えてしまう理由を排除し、従業員を大切にする仕組みを構築することがポイントです。

まとめ

個々の従業員の能力に目を向けず、人材を大切にできない会社は、成長できないと考えられます。会社が成長できないと現状維持すら難しくなり、いずれは離職率増加などのマイナスに転ずる可能性も出てきます。

そのため人材開発の担当者や人事・総務担当者は、「人材を大切にする」という基本的な目的を明確にしたうえで、人材開発に取り組む必要があります。人材を大切にすることを第一に考えて、会社の成長を促すことが重要です。

次の章では、「個人の価値観の多様化により人材開発のゴールも多様化している」点をテーマに解説します。