【人材開発Vol.4】研修の企画は誰に何を依頼すればいいの?

人材開発において社内研修を検討する際に、「最初に研修会社に依頼するべきなのか」悩む人事担当者も多いです。研修会社に依頼する際には、さまざまな準備を通して、最高の効果を引き出す必要があります。以下では、人材開発の研修を研修会社に依頼する際のポイントを解説します。

研修会社への「丸投げ」はNG

研修会社への「依頼」という言葉には、さまざまな意味が考えられます。「研修内容を提案してもらうこと」「テキストを作成してもらうこと」「講師を派遣してもらうこと」「会場や備品を用意してもらうこと」「研修後の評価をフィードバックしてもらうこと」など、依頼内容は多岐に渡ります。

上記のような内容のうち、研修会社への依頼を「すべて丸投げにすること」は、避けるべき行動となります。前章で解説したように、人材開発において重要なのは、企業と研修会社の共同作業です。

そのため、研修会社への「依頼」は、担当者との「キャッチボール」によっと行う必要があります。ここで行う「キャッチボール」は、人材開発の課題を複数の視点で考え、その効果が機能することで、課題の深掘りをすることが目標です。

ひとつの人材開発の課題について、複数の視点が考えることによって、ゴールが明確になり、カリキュラムも定まってきます。

自社の人材開発の担当者と研修会社との「キャッチボール」を行うことが理想であり、この共同作業を経て企画・実施する研修は、非常に満足度が高く、人材開発の課題に対して、最適な内容で実施することができます。

面倒な作業は丸投げできた方が楽ですが、「人材開発の課題に対して、ゴールを明確して実施した研修が上手く行った!」「人事・教育担当者としての役割を充分に果たすことができた!」と実感する瞬間は、何事にも変えられない素敵な瞬間となります。そのため、研修会社にすべて「丸投げ」はNGと言えます。

研修会社とのゴールの共有が重要

人事・教育担当者と研修会社が「キャッチーボール」によって、人材開発の課題とゴールをしっかり共有できたとき、期待する研修効果が充分に発揮されます。

そのためには、最初の言葉を「依頼」という形で研修会社に渡し、それを研修会社が受け止めるプロセスが重要です。このやりとりを仮に「ゴールの共有」と呼びましょう。人材開発においては、依頼する側とされる側の「双方がゴールを共有する」ことで、期待される研修効果が引き出せます。

具体的には「研修でゴールを達成した」「ゴールに確実に近づけた」という実感を得ることが、研修における重要なポイントです。研修のゴールを共有して満足度を高め、高いモチベーションで受講できる体制を構築できれば、高い成果が出せます。

そのため人材開発の担当者は、研修会社に作業を丸投げするのではなく、共同作業でゴールを共有することが求められます。また、依頼する研修会社が信頼できるのか判断するのも、担当者が担う役割のひとつです。

自社の課題に親身になってくれるか、研修のカスタマイズに対してポジティブに対応してくれるかなど、実際の交流を通して信頼できる相手か見極めることが重要です。

研修のゴールは「実感できるもの」に設定する

先程「研修でゴールを達成した」「ゴールに確実に近づけた」という実感を得られるかが、研修の成果を測るポイントと伝えました。

そのため研修のゴールは、あらかじめ「具体的に測定・実感できるもの」に設定する必要があります。このときに注意すべきなのが、受講者も成長を実感できるゴールを決めることです。また研修の直接的な効果を数値で測定するのは困難であるケースが多いため、実感できるものという定性的な判断も必要です。

例えば「職場を管理するスキルの習得」がゴールの研修を、若手の従業員が受講しても、成果を実感できない可能性が高いことは想像が付くと思います。また、「顧客対応を完璧にこなすスキルの習得」といったゴールの場合、「実現できないのでは?」という疑問から、実感できないケースが想定されます。

「職場を管理するスキル」の定量評価の例

職場を管理するスキルは、主に管理職または業務を3年程度経験したリーダー候補の方が受講することで、成果が実感しやすくなり、「職場を管理するスキルの習得」において、具体的に測定できるものについては、下記のようなものがあります。

1.目標達成率
  • 項目: チームや部署の定めた目標やKPIに対する達成率。
  • 事例: “年間のプロジェクト目標を95%以上達成し、部署の成果を向上させました。”
2.従業員の生産性向上
  • 項目: チームメンバーの作業効率やプロジェクト完了までの時間の短縮。
  • 事例: “チームの生産性を10%向上させ、プロジェクトの平均完了時間を15%短縮しました。”
3.予算達成率
  • 項目: プロジェクトや部門の予算に対する実績。
  • 事例: “年度予算を5%節約し、同時にプロジェクトの品質を維持しました。”
4.従業員満足度
  • 項目: 従業員満足度調査の結果やフィードバックに基づく評価。
  • 事例: “従業員満足度を前年比で8ポイント向上させ、定期的なフィードバックセッションを導入して従業員の声を取り入れました。”
5.リーダーシップ評価
  • 項目: 360度評価や上司のフィードバックによるリーダーシップの評価。
  • 事例: “従業員からの評価が前回比で15%向上し、リーダーシップの向上が認められました。”
6.プロジェクトの納期遵守
  • 項目: プロジェクトの納期に対する遵守率。
  • 事例: “プロジェクトの95%以上を納期内に完了し、顧客からの信頼を高めました。”
7.チームの効果的なコミュニケーション
  • 項目: チーム内のコミュニケーション効果を示す指標。
  • 事例: “メールへの返信率を10%向上させ、会議の進行時間を20%短縮して円滑な情報共有を実現しました。”

これらの項目と事例は、具体的な数値やデータを使用して管理職のスキルを評価するための一般的な基準です。企業はこれらの評価項目を組み合わせて、管理職の総合的なパフォーマンスを評価するようにしましょう。

「職場を管理するスキル」の定性評価の例

「職場を管理するスキルの習得」において、具体的に実感できるものについては、下記のようなものがあります。

1.コミュニケーションとリーダーシップ
  • 項目: チームとの効果的なコミュニケーションやリーダーシップスタイルの柔軟性。
  • 事例: “彼は困難な状況でもチームとオープンに対話し、的確な指示を与えることができます。メンバーが自分の意見を述べやすい雰囲気を醸成しています。”
2.問題解決と決断力
  • 項目: 問題に対する迅速かつ効果的な解決策の提供や決断力。
  • 事例: “彼は複雑な問題に対して柔軟に対応し、創造的な解決策を見つけることができます。また、重要な意思決定において的確な判断を下す能力があります。”
3.チームビルディングとモチベーション
  • 項目: チームの結束を高め、メンバーのモチベーション向上に貢献する能力。
  • 事例: “彼は個々のメンバーの強みを見つけ、それを活かすような環境を作り出しています。チーム全体が協力し合い、共通の目標に向けて努力しています。”
4.フィードバックと成長促進
  • 項目: 従業員に対する建設的なフィードバックの提供と成長を促進する能力。
  • 事例: “彼は従業員とのフィードバックセッションを重視し、具体的なアドバイスを提供しています。従業員の個々の成長に焦点を当て、フィードバックを通じてポジティブな変化を促進しています。”
5.タスク管理と優先順位付け
  • 項目: タスクの効果的な管理と優先順位付けのスキル。
  • 事例: “彼はプロジェクトの進捗を的確に把握し、適切な優先順位をつけることができます。緊急性と重要性を理解し、リソースを最適に活用しています。”

これらの項目と事例は、管理職が職場を管理するスキルを評価するための一般的な指標です。これらの評価は、具体的な行動や態度に焦点を当て、定性的な評価することで、職場を管理するスキルを習得できたかを実感することができます。

「顧客対応を完璧にこなすスキルの習得」の定量評価の例

「顧客対応を完璧にこなすスキルの習得」において、具体的に測定できるものについては、下記のようなものがあります。

1.顧客満足度スコア
  • 項目: 顧客満足度調査におけるスコア。
  • 事例: “最新の調査で得られた顧客満足度スコアが90%以上で、前回比で5ポイント向上しました。”
2.問題解決時間
  • 項目: 顧客からの問い合わせやクレームに対する解決までの平均時間。
  • 事例: “顧客からの問題に平均して24時間以内に対応し、解決にかかる時間を前年比で15%短縮しました。”
3.クレーム対応率
  • 項目: 受けたクレームや問題に対する適切な対応率。
  • 事例: “クレームに対する返金や補償の対応率が99%で、不満足な顧客を最小限に抑えました。”
4.顧客フィードバックの活用
  • 項目: 顧客フィードバックからの改善点の実装率。
  • 事例: “顧客からのフィードバックを継続的に収集し、そのうち70%以上の意見を新しいサービスやプロセスの改善に反映させました。”
5.顧客応対時間の効率性
  • 項目: 顧客とのコミュニケーションにおける平均対応時間。
  • 事例: “電話やメールなどの対応時間を平均で10%短縮し、迅速で効率的な顧客応対を実現しました。”
6.リピート顧客率
  • 項目: 過去の顧客が再度購買やサービス利用を行った率。
  • 事例: “新規顧客の獲得だけでなく、既存の顧客のリピート率が前年比で5%向上し、顧客忠誠度を高めました。”

これらの項目と事例は、顧客対応のスキルを定量的に評価するための一般的な指標です。研修を実施した後はこれらのデータを使用して、顧客サービスの品質や効率性を測定し、改善の方針を立てることが大切です。

「顧客対応を完璧にこなすスキルの習得」の定性評価の例

「顧客対応を完璧にこなすスキルの習得」において、具体的に実感できるものについては、下記のようなものがあります。

1.エンゲージメントと共感
  • 項目: 顧客とのコミュニケーションにおいて、感情移入や理解力を発揮する能力。
  • 事例: “彼は顧客の悩みや要望に真摯に向き合い、共感的な言葉や表現を使って、顧客が理解されていると感じさせます。”
2.解決力と柔軟性
  • 項目: 複雑な問題や要望に対して創造的で柔軟な解決策を提供する能力。
  • 事例: “彼は状況に応じて柔軟に対応し、顧客の問題を迅速かつ効果的に解決することができます。創造的な解決策を提供し、顧客の期待を上回ります。”
3.コミュニケーションスタイル
  • 項目: 聞き手に徹し、明確で効果的なコミュニケーションを築く能力。
  • 事例: “彼のコミュニケーションスタイルは分かりやすく、顧客との対話において不明確な点をすばやくクリアにし、円滑なコミュニケーションを実現しています。”
4.プロアクティブな対応
  • 項目: 顧客のニーズを先読みし、予防的に対応する積極性。
  • 事例: “彼は常に顧客の期待を上回るサービスを提供しようとし、問題が発生する前に顧客のニーズに対応するプロアクティブなアプローチをとっています。”
5.ストレス耐性と冷静な対応
  • 項目: 圧迫された状況でも冷静さを保ち、上手にストレスを処理する能力。
  • 事例: “彼は高いプレッシャーの状況下でも冷静な態度を保ち、問題解決に焦点を当てています。これが顧客に安心感を提供しています。”
6.フィードバック受容と改善
  • 項目: 顧客からのフィードバックを受け入れ、サービスやプロセスの改善に積極的に取り組む態度。
  • 事例: “彼は顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、その結果を分析してサービスの向上に寄与しています。”

これらの項目と事例は、定性的な観点から顧客対応のスキルを評価するための基準です。これにより、スキルの質やその影響を具体的に評価できます。研修後にこのような定性的な観点から評価することで、スキルが習得できたかを確認することができます。

そのほかにも、「社会で必要とされる人材になる」といったゴールも、人によって捉え方が異なるため、実感が難しい設定です。これらはゴールではなく、まだ「理念」の段階にあるといえます。理念とは「目的」を意味し、明確なイメージに落とし込むには「ビジョン」を考える必要があります。

このビジョンの実現には、「戦略」が求められます。そして戦略を具体的な行動に移すのが、「目標」となります。人材開発において設定すべきゴールとは、この「目標」にあたるものです。

基本的な流れとしては、「企業理念」を「ビジョン」に落とし込み、それを実現させる「戦略」を考案し、「目標」を立てることで研修のゴールを設定できます。

ゴールはひとつである必要はない

人材開発のゴールはひとつに絞る必要はなく、複数あって当然のものとなります。従業員のレベルや課題ごとにゴールを設定し、実現するための方法を考えることが、担当者の役割となるでしょう。課題やゴールの内容によっては、研修が最適とは判断できない場合があります。

しかし、真剣に考えた結果を研修会社に伝えられれば、最適な方法を一緒に模索してくれます。結果的に研修会社に依頼することが、課題解決やゴールの達成における近道となるでしょう。

まとめ

人材開発の研修を行う際には、研修会社と「共同作業」を行う必要があります。研修会社への依頼で、作業を「丸投げ」してしまうと、自社の求める成果を出せない可能性があるでしょう。人材開発の担当者は、研修会社と積極的に交流し、「ゴールの共有」を通して成果を実感することが重要です。

それぞれ、人材開発の担当者として、下記の内容を関係者に依頼・確認し、、研修を企画するようにしましょう。

経営層・各部署の上長人材育成に関わる「企業理念」およびその先の「ビジョン」を確認し、「会社にとって必要な人材の人物像」を具体化してもらう
研修会社自社の人材育成に関わる人材育成に関わる「企業理念」およびその先の「ビジョン」と「会社にとって必要な人材の人物像」を伝え、基本的な研修カリキュラムなどのフォーマットをもらう
人材開発担当者人材育成の長期的な目標を達成するために、具体的な人材開発の短期的な目標を立て、研修会社からもらった基本的な研修カリキュラムなどのフォーマットの中から、 より自社に合ったものを選定・質問し、研修会社の協力して企画する

人材開発におけるゴールは、ひとつに絞る必要はありません。むしろ従業員の数だけゴールがあり、最適な解決策を設定するのが基本です。人材開発の担当者はその点を把握したうえで、研修会社と協力してゴールの達成を目指しましょう。

次の章では、「人材を大切にする会社は成長する」をテーマに解説します。